ここが残念極まりないニュースを伝える場となってしまったのが惜しまれる。不治の病と言われる屈腱炎を両前脚に患っていたウインアンセムだったがその後の調整過程も空しく自身の競争生命にピリオドを打つことになった。その蹄跡を振り返らないわけにはいかない。
初対面はベンチ温め係―クラブ主催の見学ツアーに参加し初出資馬が坂路コースを疾走する姿に胸を打たれるシーンが展開されるはずだったが前日に引いた風邪の影響で乗り運動は中止に。そしてそれからわずか1週間と経たぬうちに脚部不安の情報がもたらされた。一説にはこの時すでに前脚に何らかの異常をきたしていたとも後になって囁かれてもいる。
牡馬に出資したはずだが―脚元の不安は意外と長引きただひたすら牧場でウォーキングマシンに追われる日々が続いていたある日、それは何の前触れもなく執行された。事後報告にあるのは重い重い「去勢」の二文字。かくして以降狂おしいほどに燃える気性は影を潜めることとなる。と同時に残された道は走り続けて結果を出すこと、それしかなかった。
愛馬を持つ喜びと歯痒さ―ここまででも十分過ぎるほど波乱万丈。しかしアンセム史はまだまだ盛り上がりに事欠くことはなかった。新潟のデビュー戦でダントツの最下位を記録。やっとの思いでそのゲートに辿り着いた、そこに至るこの2年間の過程を痛いほど知るだけにこれまで観てきたどんな未勝利戦よりも味のある、胸に残る58.5秒だった。
明日への期待、そして・・・―アンセムの進路はいつも突然切り開かれる。2戦目はオーナーの夏休みに合わせるかのように平日の船橋が選ばれた。初戦のイメージを払拭できず疑心暗鬼な応援団を前に秘めたる能力のほんの一部を垣間見せての2着。初めてオーナー気分を満喫した日。そして膨らむ次走への希望。しかしその願いが形を成すことは、こうしてなくなった。
日米オークス制覇の偉業を成し遂げた名牝、未知なる衝撃波に真っ向勝負を挑んだダービー2着馬と同期のスペシャルウィーク産駒は間もなくあと4日で競走馬としての役目を終える。ありがとう、アンセム。そしてこの馬の存在から何かを学びとって欲しい、いや、学ばねばならないクラブが残った。
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