なぜ行ったのかもよくわからないが相当ヒマを持て余していたせいか、クソ寒い真冬に新聞も持たずにぶらり来訪。馬券を一切買わなかったにも関わらずこの日の収支は＋1000円に。その実、物見しつつスタンド前を歩いている時、何処からか寒風に煽られた漱石が自分の足元目掛けて飛来してきたというもの。目先の新聞に夢中のオヤジどもは誰も気付かず仕舞い。川崎良いとこネ〜♪まあ結局は電車賃でトントンになるだけど。

　晴れて社会人となって初めての遠征はスプリント両Ｇ�T制覇を志すブラックホークによって導かれた。もはや恒例となった悪天候に動じることもなく雨宿りがてら朝マックに励むも名古屋駅周辺は本当に何もなかった。競馬場へと向かう名鉄電車の車中にてステイゴールドのドバイシーマクラシック優勝を知る。コース毎に傾向がはっきりしている中京競馬は些かイージーだったように感じた。肝心のブラックホークはＣＢＣ賞に続いてトロットスターの後塵を拝すこととなったがアウェイ初の馬連的中とプラス収支を計上。ほぼ満足気のバイ男の横でこの日全敗のカマーチョはちと腐り気味。時間も余力も今一歩及ばなかったために蓬莱軒のひつまぶしを食べ損なったのがちぃとばかし残念だったが飲み屋で味噌かつ、名古屋コーチンを喰らう。寄る年波には勝てじとこの回から帰途はリッチに新幹線に頼ることとなる。翌日「昨日競馬行った？」との上役の問い掛けに「ええ、中京まで」と応えた瞬間の当人の唖然呆然とした表情といったらそれはもうなかった。はるばる中京まで赴いておきながらその3か月後、近場の府中に行きそびれ安田記念でのマイル王戴冠劇と10万馬券を逃すという汚点もこの後憑いてまわることとなる。

　現在に至る競馬場めぐり興行の礎となった処女遠征。京都競馬場改修に伴なう入場人員整理のために用意されたこの年限りの前売入場券を東京競馬場発売分のSOLD OUT寸前、まさに水際で入手することに成功した2人は意気揚々と西下を果たす。最凶の雨男タッグに吸い寄せられたかのように淀上空に集まった雨雲もメインを向かえる頃にはそれまでの散財同様、霧散と消えてしまっていた。直線、一旦立て直すアクションに泣いたローゼンバイ男を尻目に隣りで的中をほくそ笑むステイカマーチョ。丸1日全レースに参戦して的中はわずかにこのローゼンの複勝のみ。やけに家族連れが多い古都の競馬は勝負師の肌に合わなかったか。開催終了後、何を思い立ったか群集の溢れる淀駅とは正反対の方向に歩を向けた2人は淀川沿いを闊歩し国道を無理やり横切り蛇行を繰り返すこと2時間余り、誰もやることはないであろう淀〜京都間を徒歩で踏破。目に見えて疲労困憊の2人を催したのはあろうことかマックと京都ラーメンだった。そう、この時点ではまだご当地グルメ道への飽くなき探求心に目覚めてはいなかったのである。あぁ、懐石が口惜しい。

　深夜バスでの往復も京都に次いで2度目ともなると勝手がわかり精神的にもゆとりが感じられた。しかしその興奮度合いは何ら変わることなく消灯後もひそひそながら葛藤を続けるバイ男に対し後方から関西弁のツッコミが。仕方なく独り、星と戯れ夜を明かす。早朝の御堂筋通りでは車道脇に若者の死体を発見するがトラブルはご免とばかりにシカトを決め込む。甲子園球場を横目に見つつ仁川に入場。ここ阪神はその場所柄か、ギャルの姿が異様に目に付いた。快晴だったこの日の天候とは裏腹に馬券指南は日陰道から一切出ることなく、さらにはメインで痛恨の一撃を食らうことに。前走・目黒記念での快勝劇に、6歳にしてとうとう新境地を開拓かとばかりに打倒2強を目論み勇躍挑んだものの･･･大観衆を虜にした2頭の名勝負から遅れること10馬身、悶え合いの3着争いにも敗れ去ったその結末はレース後、ベンチに塞ぎ込み競馬について考えさせられる30分の悩ましいひと時を送り込んだ。あの時道頓堀で食らったたこ焼きとお好み焼きの渇いた味を忘れることはないだろう。競馬に関わり始めてからもう幾ばくか、これまでで最も競馬から身を置いた瞬間であった。

　長崎ハウステンボスから博多、そして下関へと流れる九州旅の最中に立ち寄る。小倉発のモノレールを降りてすぐパドックという絶好のロケーションに加え、改装を終えて間もないスタンドは随一の清潔さを漂わせていたのだが時節は折りしも平日。この日の主役は馬場をパンパン叩く数人のおババ達だった。むしろその後関門海峡を渡って下関まで食いに行ったフグの印象の方が濃いのも納得。いずれもう一度行かねばなるまい。ちなみに小倉名物・ゴール前のジャンプは見苦しいので厳禁の方向で。